拡張する現実

AR(Augmented Reality:拡張現実)という概念が知られるようになって久しい。ARとは、人間は認知できる情報(現実の認識)に対して、何らかの情報を加えることによって、人間の認識そのものを拡張していく手法を指す。
2016年段階では、各メーカーからリリースされているヘッドマウントディスプレイを使った一連のサービス/ゲームや、位置情報を利用したゲーム、とりわけGoogleの一部門であるNianticがリリースした『Pokémon GO』※1などがその代表的なものとして挙げられる。
人間の認識がデバイスによって拡張される、というアイディアは、古くから……あえて遡ればウイリアム・ギブスン『ニューロマンサー』 ※2を嚆矢とする80年台サイバーパンクの時代から提唱されてきた。

テクノロジーが進歩が進むにつれ、こうしたサイバーパンクの影響を受けた研究者や技術者が、「それを具現化したい」という欲求に駆られて研究が進んでいったことも想像に難くない。
ARという手法〜あるいはアプローチを実現するために、こうしたテクノロジーは重要な要素ではあるが、「拡張する現実」という語義をそのまま虚心坦懐に捉えれば、結局のところ、もともと人間がどのように現実を認識し、そこにどのような付加情報が加わるか、という構図が重要となる。

※1
GoogleのサービスであるGoogleMapをベースに、スマートフォンに表示される位置情報と物理空間の散策を組み合わせたゲーム。前身となった『Ingress』というゲームでは、SF風のストーリー設定があったが、『Pokémon』という広く知られたキャラクターと世界観と融合することにより、社会現象ともなった。
©2016 Niantic, Inc.
©2016 Pokémon. ©1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

※2
人体と仮想空間(ネットワーク)を結合するという卓越したアイディアを提唱した、サイバーパンクの代表作。ネットワークと人間の関係性や、それから生み出される社会/経済/政治などを俯瞰して捉えるメタフィクション的要素も持っていた。ウイリアム・ギブスン(1986)『ニューロマンサー』(早川書房)

2013年12月からスタートし、各地の展望台で実施されているCITY LIGHT FANTASIAシリーズ(NAKED/)※3はそのような課題意識の中で制作された展示である。このシリーズの仕組みは至って簡素である。展望台の窓ガラスに映像が投射できる透明フィルムを貼り、そこに映像を投射するだけの仕組みとなっている。
ここで重要となってくるのは、「夜景」と「映像」がそれぞれを損なうことなく重畳され、同じ認識空間上にあることである。
「夜景」というのは、基本的には都市に出現するものである。さらに具体的に分解すれば、部屋の電灯/車のヘッドライト/街灯/信号などの光の集合体である。こうした光のひとつひとつは、紛れもなく日々の人間の営みの集合体でもある。
本展の「都市とはアートである」というテーマは、都市そのものに偏在する創造性が焦点とし、それを可視化する試みである。アート=人々の営みそのものであり、人々の営みの集積が都市である、としたときに、夜景とはその集積が光となって現前したものと捉えられる。

この一連のシリーズは、そうした人々の営みの集積である「夜景」に、異なったコンテクストである映像を投射する、という構図で、都市に対しての現実認識を拡張する、というARの原初的な構図を達成しようとするものである。

※3
2014年12月の東京タワーを皮切りに、渋谷ヒカリエ、名古屋テレビ塔、あべのハルカスなど全国各所の展望台で実施された展示。それぞれの都市の夜景と、それに併せて作成された映像によって、ARのひとつの形としての展示を目指して制作された。

CASE STUDIES

人の営為の集積が“都市”であるとき、我々の“LIFE”はどのようになっていくのか。
本展は、そうした「私たちそのものへのあり方」への問いかけでもあります。

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