コンピューターグラフィックスと、めくれあがる都市

1982年に公開された『TRON』※1は、初めて全面的にCGを使った映画として、話題を集めた。その後、映画やゲームの分野では「いかにリアルな光景を構成するか」というテーマのもと、日進月歩で技術を発達させてきた。
逆説的に言えば、コンピュータグラフィックスを目にしたときの違和感が、「我々人間にとって何がリアルと感じるのか」という問いにつながり、質感の研究が本格化したとも言える。こうした問いは、CGで作成された人間の「ある種の不気味さ」から“不気味の谷”としてよく知られている。ただ、こうした不気味の谷問題も、CG技術の発達とともに克服されつつあり、おそらく遠くない未来には、CGによって「我々がリアルと感じられる」表現が可能になるのはほぼ疑いがない。

映像のデジタル化が本格化するのは1990年代に入ってからだが、現在ではすでに何らかのデジタルプロセスを通してしない映像は皆無と言ってよい。よって、CGがCGであることで話題を集める時代はほぼ終わった。そして、手段としてのCGから、CGでしか表現し得ない演出へ、の時代へ入っていく。
2010年に公開された『Inception』※2では、めくれあがる都市がCGによって描かれた。優れたCG表現の映画は多数存在するが、『Inception』における表現はひとつのエポックメイキングであった。

※1
世界で初めて全面的にCGを採用して制作された『TRON』。実際にはアナログ手法で撮影されたシーンも多い。2010年には同監督によってリメイク版も制作された。
スティーブン・リズバーガー(1982)『TRON』
『トロン:レガシー』
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©2016 Disney

※2
めくれあがる都市だけでなく、斬新な映像表現によって大きく話題となった。同作品の監督を務めたクリストファー・ノーランは、前述の『TRON』にもアニメーターとして参加している。 クリストファー・ノーラン(2010)『INCEPTION』
『インセプション』
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©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

一方で、技術が向上して、様々な表現が可能になると、もはやそれが当たり前になり、どのような表現をしても、もはや人はそれを驚かなくなってしまう。 2010年に発表されたサカナクション『アルクアラウンド』のミュージックビデオ※3では、モーショングラフィックス的な表現を、物理空間で表現することにより、数々の賞を獲得した。
同様に、2015年に公開された映画『Mad Max: Fury Road 』(ジョージ・ミラー)※4では、随所にCGは使用しているものの、シーンの多くが実際のスタントによって撮影されたことが大きく話題となった。
このように、物理的な表現(インスタレーション)と映像的な表現は常に互いに相互参照を繰り返し、生成されていく時代となっている。

本展内で展示された “めくれあがる都市”は、かつて映画で表現されたフィクショナルな空間が、リアルな空間に再配置されるという意図を持って制作された。それは単に映画のワンシーンの再現ということではなく、物理空間と情報空間の果てしなき相互参照を表現することを企図している。

※3
ワンカットで撮影され、一件ランダムに配置されたオブジェのなかで、カメラが特定の位置を通過すると意味性のある記号が出現する、というギミックで話題となった。(『アルクアラウンド/サカナクション』, 2010 , 関和亮)

※4
オーストラリア/ナミビア砂漠で撮影された本作。通常の映画と較べてセリフが極力抑えられており、映像そのものでのストーリーテリングで大ヒットとなった。多くの危険なシーンで実際にスタントが行われていることも話題のひとつとなった。 ジョージ・ミラー(2015)『MAD MAX : FURY ROAD』
『MAD MAX : FURY ROAD』
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©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

CASE STUDIES

人の営為の集積が“都市”であるとき、我々の“LIFE”はどのようになっていくのか。
本展は、そうした「私たちそのものへのあり方」への問いかけでもあります。

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